About
Archive
Marebito news letter
Text
Youtube
contact


福島滞在記②

福島滞在記①(0〜2)/ 福島滞在記②(3〜5)/ 福島滞在記③(6〜9)福島滞在記④(10〜12)


3.楓庵

この店は向かいが待合室のあるバス停、隣がセブンイレブンという立地なので人も来やすいのだろう。対応などはそっけなく感じたが、一組客が帰ると一組別の客が来…というまったりしたいい客足の店だった。飲み物がセルフサービスで、水とお茶は無料だが、コーヒーと紅茶は有料。ボタンを押すと飲み物が出る機械のとなりに、有料の飲み物を貰った人が小銭を入れるための箱があった。しかしそれはよくみると「東日本大震災義援金」のラベルが貼ってある、東京でもいろんな店にあるような透明プラスチックの募金箱だった。少々戸惑う。こういうものは全国的に店舗に配布されるものなのだろうか。当事者の地域の店であろうと関係なく配布されるものなのだろうか。それとも誰かから余ったものをもらったのだろうか…。皆気にせずコーヒーを飲むときはそこに小銭を入れる。(私もそうだが)水やお茶など無料のものの時はそこを素通りする。義援金のラベルはあるが、あくまでその箱は「コーヒー紅茶は〇円です」という張り紙と一緒にあり、代金はそこに入れるよう指示されている。そうである以上、募金箱ではない。当たり前なのだが、お金を入れる場合でも入れない場合でもなんとなく妙な気持ちがわきませんか?と問いたい気持ちにもなる。しかし皆誰も気にする人はいないようだ。そもそも何人かは常連さんなのだろう。この箱も、下手したら2011年からずっとこの役割でここにあるのかもしれない。

4.帰りのバス

少し早めに帰ることにした。異常な日差しに疲れ果てて、もう歩けないという状態になってしまった。(もちろん、確実に、山で迷子になったのが悪いのだが)
帰りのバスでは川俣の女子中学生か高校生の女の子二人組が、私の後ろの席でえんえんとポケモンGoの話で盛り上がっていた。福島の子たちもやるのか、とぼんやりきいてしまったが、いつまでも盛り上がっている割にはいつまでもキャタピーの話しか出てこない。もしやこのあたりにはキャタピーしか出没しないのか…?とにかくキャタピーの可愛さでえんえん盛り上がっている。キャタピーは芋虫・青虫のモンスターで、小学校のときを思い出してみても、特別話題になるようなものではなかったと思う。ちょっと微笑ましくなってしまった。

5.駅前―ミスタードーナツと花屋

福島駅に帰るとまだ夕方だった。駅前のミスタードーナツで少し休憩しようと、椅子に手提げ荷物を置いて注文しに行く。すいていて並ぶことなくすぐに注文できた。商品もすぐに渡され、それをもって先ほど自分が鞄を置いた席に戻ろうとしたら、鞄がなかった。
一瞬頭が真っ白になった。しかし冷静に考えると、席を離れていた時間はそんなに長くないしカウンターの真後ろの席だったため後ろでおかしなことがあればすぐ気付いたのではないかと思う。隣の席にはお客さんがいたし、さすがに泥棒には気づくだろうと思う。
振り返って店員さんに鞄がなくなっていることを伝え、「もしかしたら忘れ物と思われたかも」と付け加えると、新人らしきその店員さんが奥に見にいってくれた。 案の定かばんは忘れ物として回収されていた。
しかし全く客は並んでおらず、鞄を置いてすぐ注文をしはじめたのだ。その短時間の間に回収してしまうなんて、東京では考えられないなと思ったのだけど、もしかして福島あたりでは「貴重品の入っていない荷物を席においてから注文に行く」という習慣はないのか?むしろそっちが首都圏だけのローカルルールなのだろうか…。そういえばあまりこの手の店には首都圏の外ではいかない気がした。結局どうするのがこの町での〝正解〟なのかはよくわからない。

このときに限らず全体的に、福島で会った店員さんのテンションは低めに感じた。
ただ、駅前の花屋で鬼灯のところにあった、
「産地が九州です 震災や大雨の影響で入荷困難となっています お早めに」という手書きのポップに、なんともいえずほっこりした。
私の地元の花屋では、九州が産地である花を「被災地応援」という名目で売っていた。それよりもこの福島の花屋のコメントの方が温かく親切であると感じた。書いてある内容は九州を気遣ったものではないのかもしれないが、しかしそこには「当たり前のように理解すること」が浮かび上がっている。被災地のものを買いましょう、応援してあげましょう、といった親切パフォーマンスはなくとも、淡白なその言葉に、この地が背負わされたものとそこから生まれる温かみがあると感じた。

駅の外壁にはリオオリンピックに出場が決まった地元高校の出身者を堂々と垂れ幕で宣伝している。反対側ではたしか、全国大会出場の高校生を垂れ幕で宣伝していた。
ここは「大きな駅」なのだと思う。それでいて「福島」でもある。

 

⇒福島滞在記③へ